Mind Harmony
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心理学

道徳教育と心理教育

Keyword:道徳教育、コールバーグの道徳性発達理論、発達心理学、

 心理職として常々思うのは、学校での道徳教育と心理教育がどうにか上手く連携して授業が行えたらな、ということです。道徳は人間の内面的な部分を扱うもので、その点は心理学と相違はないと思います。そして、人の心の領域を取り扱うにはやはり心理学的視点をあらかじめ備えておく方が良いのではないかと考えています。

 「道徳性」とは「理性的判断」であるともいえ、学習や経験から理性を育成していくのが道徳教育の目指すところではあると思うのですが、近年の発達心理学研究では、乳児の頃から他者の行為に対する社会的評価を行うことが分かっており、道徳性につながる善悪の直観的な判断が見られることも報告されています。必ずしも理性のみが道徳性を育むのではなく、先ず養育者との社会的な関わりの中で育まれる直観的な判断があり、そして理性的な判断につながっていくという考えが近年の心理学において主流になっています。

 道徳教育の学習を行うにあたり、子どもたちの道徳性の発達段階を理解しておくことも大切ですが、それと併せて「認知の仕方(物事の捉え方)」にはそれぞれ違いがあるということを念頭に置いておく必要があります。大人でも子どもでもそうですが、私たち人間はどんな人でもその人特有の「認知の癖」というものがあります。「認知の癖」とは自動思考とも言いますが、分かりやすくいうと「何か出来事が起こったときに突差に頭の中に浮かぶ考え」のことです。例えば、コップに半分入っている水を見て、「まだ半分もあるのか」とポジティブに捉える人もいれは「もう半分しかないのか」とネガティブに捉える人もいます。どちらが良いか悪いかではなく、同じ出来事でも人によってその捉え方は違うということです。

 このようなそれぞれの受け止め方の違いを考慮しながら平均的な道徳的価値観を養っていく学びを道徳の授業だけで行うのは非常に難しいのではないかと感じています。なぜなら、平均的な価値観に値しない価値観に対してこそ丁寧に取り扱っていく必要があり、直観的判断を育む経験を積み重ねていくことも併せて必要になってくるからです。その基本的な心の仕組みの部分の学びを担うのが私たち心理職の役割だと思っています。学校で心理教育を行なっているスクールカウンセラーも増えていると聞いていますが、今後更に心理教育が行いやすい環境が整えられていくと良いなと思っています。

コールバーグの道徳性発達理論

アメリカの心理学者コールバークは「道徳性発達理論」の中で、人間の道徳的判断を次の3つのレベルと6つの段階に分けた。

1.慣習以前のレベル
第1段階:罰と服従への志向(他律的道徳性)
罰の回避と力への絶対服従が正しいことであると判断する。罰せられるか褒められるかだけがその行為の善悪を決定する。(教師や親など権威のある人に怒られないようにする。又は、褒められるからする。)
第2段階:道具主義的相対主義への志向(個人主義的な道徳性)
正しい行為は、自分自身の、また場合によっては自分と他者の欲求や利益を満たすものとして捉える。(自分の
行動の損得が道徳的判断になる時期。友達との喧嘩などで、相手からやられたら自分の同じようにやり返しても
良いと判断しやすい。)
2.慣習的レベル
第3段階:対人的同調或いは「よい子」への志向
善い行いとは、他者を喜ばせたり助けたりするものであって、他者に善いと認められる行為である。行為はその
動機によって判断され、初めて「善意」が重要になる。(他人との期待に沿い、他者から評価されることで自己
評価も高まり、それが援助行動へとつながっていく。)
第4段階:法と秩序の維持への志向(社会システムに対する責任)
正しい行為とは、社会的権威や定められた規則を尊重しそれに従うこと。すでにある社会秩序を維持すること。(社会の制度や組織の維持のために自分が果たさなければならない義務に対しての自覚が生まれる。)
3.脱慣習的レベル
第5段階:社会契約的違法への志向(規律的な良心)
規則は、固定的なものでも権威によって押し付けられるものでもなく、自分たちのためにある変更可能なものと
して理解される。社会には様々な価値観や見解が存在することを認めた上で、社会契約的合意によって行為をす
る。(4段階、5段階は規則を重んじ、家族や地域社会、国家の継続に尽くそうとするところに差異はないが、
5段階では、自分の属している組織が間違っている場合でも道徳判断を客観的に行える判断力が獲得される。)
第6段階:普遍的な倫理的原理への志向
正しい行為とは、「良心」にのっとった行為である。良心は、論理的包括性、普遍的である立場の互換性といった視点から構成される。「倫理的原理」によって、何が正しいのかを判断する。

※コールバーグの道徳的発達理論は、正義よりも他者への配慮を重んじる女性的道徳判断が評価されず、逆に正義や権威が道徳的判断となる男性的な視点が第6段階に置かれるなど、道徳判断の基準に性差の偏りが見られることに賛否両論があるが、現在でも教育の現場において幅広く活用されている。