Mind Harmony
生きづらさを手放そう 〜doingからbeingへ〜
心理学

日常生活にみられる心理学 ①「返報性の原理」 

返報性の原理

自分に何か恩恵を与えてくれた人に対し、「お返し」をしたくなる(しなければいけない)という気持ちが生じることです。「返報性の原理は、国や地域、文化や集団などに関わらず、あらゆる集団において普遍的にみられるものです。(Gouldner,A.W.1960)

返報性の原理には

◉好意の返報性:相手から受けた好意を返したくなること
例えば…SNSなどで「いいね」をしてもらえたら、その相手に「いいね」のお返しをする。バレンタインでチョコレートをもらったら、ホワイトデーにお返しをする。

◉敵意の返報性:向けられた敵意を相手に仕返ししたくなること
例えば…相手に悪口を言われたら、同じように悪口を言い返したくなる
※「返報性の原理」は援助や恩恵を受けることによって起こる心理的負債感があることを前提としているため、負債感が伴わない攻撃行動に対する「仕返し」を返報の一部と捉えるかどうかについては議論が必要だという声がある。

◉譲歩の返報性相手が譲ってくれると、自分も譲ってしまうこと
例えば…電車で座席を譲られた時、「いえいえ、どうぞ」と自分も譲ってしまう
※譲歩の返報性を応用した交渉術に「ドア・イン・ザ・フェイス」という交渉術がある

◉自己開示の返報性相手がオープンな態度接してくれると、自分も手に対してオープンになれること
例えば…相手が秘密にしていることを打ち明けてくれたら、自分も「実は…」と秘密を打ち明ける

返報性の原理に関する研究実験(Berry&Kanouse 1987)

※アメリカの心理学者デニス・リーガンの実験が良く知られていますが、ここではベリーとカノウズが1987年に行った実験を取り上げます。

ベリーとカノウズはアンケートの解答率を高めるために返報性の原理を用いて実験を行った。
彼らは医師に対してアンケート用紙を郵送する際に、

A:20ドルの小切手を同封する条件の群

B:返送すれば20ドルの小切手を送付する群

を設定し、両者の間で返送率にどのような違いが現れるかを調べた。
その結果、後から小切手を送付するとしたB群の返送率が66%であったのに対し、最初から小切手を同封したA群では78%に達していた。また、A群において、それぞれ小切手を受け取った人がどの位の割合で換金したかを調べたところ、アンケート用紙を返送した人は95%が換金したのに対し、返送しなかった人で換金した人は26%に過ぎなかった。この結果から、最初に小切手を全員に同封してもコストに大きな変化はないことが示された。

消費者の購買行動を導く

返報性の原理は消費者の購買行動を導く際に用いられることがあります。
「デパートやスーパーの試食販売」

「試供品や無料サンプルの配布」
などにもこの原理が用いられています。

ビジネスでの交渉術「ドア・イン・ザ・フェイス」

譲歩の返報性を応用した交渉術に「ドア・イン・ザ・フェイス」というものがあります。まず、

誰もが拒否するような大きな要求をし、次に小さな要求へと譲歩していくことで相手に受け入れさせる

という方法です。
※「一貫性の原理」との違いは、譲歩の返報性の場合、好意や恩恵(この場合、譲歩)に対する心理的負債感が存在するという点です。

「ドア・イン・ザ・フェイス」の研究実験(Cialdini,R.B,Vincent,J.E etc.1975)

ロバート・B・チャルディーニらが、1975年に大学生を被験者にして行った実験研究。

大学の校内を歩いている学生を呼び止め、「非行少年グループを動物園に連れて行いくので2時間ほど手伝いをして欲しい」と頼んだところ、この要請を受け入れてくれた学生はわず17%だった。これに対して、「2年に渡り週2時間、非行少年のカウンセラーをやって欲しい」という非常に大きな要請を出し、これを学生が一旦拒否した後に、同じように「動物園に連れて行って欲しい」という要請を出すと、承諾率は50%にも上がった。

この結果は、要請者の譲歩(要求の引き下げ)に対して、被要請者が譲歩を返した(不承諾から承諾へ)「譲歩の返報性」の効果を示すものとなった。

催眠商法(SF商法)に使われている

「おとり商品」を無料、または安値で販売するすることで人を集め、最終的には「お返し」として高額な商品を購入させるように迫る商法。
この場合、消費者は「返報性の原理」が働いているため、商品購入を非常に断りにくい心理状態になるが、勇気を持って「NO!」と言いましょう!

「説得力の6原則」

返報性に関して様々な研究を行ってきた、アメリカの社会心理学者ロバート・B・チャルディーニは、1984年に出版された自身の著書「影響力の武器、なぜ、人は動かされるのか」で返報性の原理を「説得の技術」として紹介しています。

「説得力の6原則」
①返報性  :自分に恩恵を与えてくれた人に、お返しをする

②一貫性  :一度下した決定や立場を正当化するように、一貫した行
動をとる

③社会的証明:他者が正しいと考えている基準に基づき、正しい判断が
決まる

④好意   :自分に好意を示してくれる相手の要請を受け入れる

⑤権威   :権威のある人に無条件に従う

⑥希少性  :獲得することが困難なものを貴重と見なす

まとめ

返報性の原理は、日常生活の様々な場面で無意識的に用いられています。ビジネスなどにおいては「交渉術」として商談の場などでも用いられています。この様に、返報性の原理は私達が社会生活を円滑に送っていく上で必要となる社会的な規範ですが、度が過ぎたり、そればかりにとらわれ過ぎるとかえってそれがストレスとなることもあります。自分も相手もストレスを感じないように心がけるていくことが大切です。また、この原理を利用した催眠商法などの悪徳商法も存在しますので、「無料」や「今だけの特別価格」などの謳い文句で販売されている商品にはくれぐれも注意しましょう。

参考文献
●安藤清志(1986)「対人関係における自己開示の機能」『論集(東京女子大学紀要)』,36,167-199
●Byrne, D. & Rhamey, R. (1965) “Magnitude of positive and negative reinforcements as a determinant of attraction”, Journal of Personality and Social Psychology, 2, 884-889.
●Cialdini, R. B. (1995) “Principles and techniques of social influence”, In Tesser, A. Advanced social psychology, McGraw-Hill.
●Cialdini, R. B., Green, B. L., & Rusch, A. J. (1992) “When tactical pronouncements of change become real change: The case of reciprocal persuasion”, Journal of Personality and Social Psychology, 63, 30-40.
●Cialdini, R. B., Vincent, J. E., Lewis, S. K., Catalan, J., Wheeler, D., & Darby, B. L. (1975) “A reciprocal consessions procedure for inducing compliance: The door-in-the-technique”, Journal of Personality and Social Psychology, 31, 206-215.
●Cialdini, R. B. (1988) Influence: Science and practice, 社会行動研究会訳『影響力の武器』誠信書房,1991年