喪失体験における悲嘆反応は個人差があるとはいえ、いずれは自然に回復されていきます。(正常悲嘆)ですが、通常の悲嘆のプロセスを通らず悲嘆反応が長期的に持続し、その悲しみの強度がいつまでも軽減されない病的な悲嘆の経路を辿ってしまうケースがあります。これを「複雑性悲嘆」と言います。
上の図にもあるように、複雑性悲嘆の状態とは急性的な悲嘆反応が上手く受容できず、悲嘆の統合が遮断されてしまった状態です。悲嘆の統合が妨げられる要因は様々あって、もちろんその方、お一人お一人の置かれた環境であったり、歩まれてきた人生であったり、ご本人の気質であったり、その要因のは様々な背景が幾重にも重なり合っていることが多いです。その中でも、一般的な悲嘆の統合を妨げる要因として、次のようなようなことがあげられます。
1.「死の状況」にかかわる要因
・突然の予期しない死別の場合
・自死(自殺)や犯罪被害、エイズなど特殊な状況での死別
・同時、または連続した喪失
・遺族自身の死の関与(直接的・間接的)
・遺体の紛失、遺体の著しい損傷
2.喪失対象との「関係性」にかかわる要因
・故人と非常に深い愛着関係(子どもとの死別など)
・過度に共生的・依存的な故人との関係、または葛藤関係や愛憎関係
3.悲嘆当事者の「特性」にかかわる要因
・過去に未解決な喪失体験
・精神疾患、またはその既往
・不安が強いなどのパーソナリティ特性
・子どもの近親者との死別(ただちに病的になることは少ないが、特別な配慮が必要)
4.「社会的要因」
・経済状況の困窮、または著しい悪化
・ネットワークの不足、孤立化
・訴訟や法的措置の発生
現在、私達が暮らす社会が直面している「新型コロナウィルス感染症による死別」を考えてみると、悲嘆反応の統合を妨げ悲嘆が長期化する危険因子を多くはらんでいると言えるんかもしれません。
配偶者の死別後、健康に問題のない男性の方が死亡率が高い!?
これまで死別と死亡率の関係をテーマとした研究は多くされていますが、その中でもアメリカの学者Schaeferらが1995年に発表した研究に、カリフォルニアの夫婦12,522組を対象に23年間の追跡調査を行ったものがあります。その研究の結果、「配偶者の死別から7〜12ヶ月時点の被験者の死亡リスクは有配偶者に比べて、元々健康に問題があった男性では1.56倍、健康問題がほとんどなかった男性で2.12倍、女性の場合では1.9倍」となっています。ここで注目したいのが、健康状態にほとんど問題のなかった男性が配偶者との死別後に亡くなる倍率が一番高かったということです。
死別の悲嘆というものをあえて表現するのなら、自分自身の身体の一部をもぎ取られたかのような底しれぬ悲しみに心が重く覆われているかのような(言葉にはできない状況に置かれる場合もあることでしょう…)、この先のことが全く見えない途方に暮れた状態になることもあると思います。悲嘆反応が自然に回復しないケースでは、人や社会との繋がりも薄くなり、病気になったり時には自ら命を絶ってしまうこともあります。深い悲しみの中にあってもその人がその人らしく生き、生活をして行くためには人の支えが必要です。グリーフケア死別による悲嘆から回復し、再び歩き始めて行くために必要なケアなのです。
「グリーフ」とは、「愛着対象の喪失による深い悲嘆」を意味します。そして「グリーフケア」とは家族や愛する人との死別後の遺族の悲嘆への援助を指す言葉でです。その人が、自分なりの悲嘆のプロセスをたどっていくこと(喪の作業・グリーフワーク)をサポートすることが「グリーフケア」なのです。
